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長く権力の座に居座ると『こんなにも自分が見えなくなるのか』という話

今から十年ちょっと前のことです。


当時私はある企業に管理職として勤めていました。

その会社の取締役の女性がパワハラとセクハラを詰め合わせた方でした。

 

しかし努力家で他の人が思いつかないアイデアを次々に繰り出して収益を上げ続け、語学も3カ国がネイティブレベルというスーパーウーマンでもありました。

 

ただしパワハラとセクハラという大いなる欠点の他にも残念な部分があったのです。

 

①長らく絶対権力を持っているが故に社内外の多くの異性から忖度され自分がモテると本気で思っていること
②スピリチュアル、運命、占い、風水を好む上に人に対して度々熱弁すること
③ランチ、ディナー、出張には必ず誰かを伴わないと気が済まない超寂しがり屋でかまってちゃんなこと

 

当時の私は好きでも嫌いでもなく、仕事上は学ぶ所があるという見方をしていましたが上記の①〜③は本当にきつかったです。

 

この方のエピソードは多々ありますが、本記事では1つご紹介したいと思います。

 

■十年前のとある日、洒落たワインバーにて
十年前のとある日の午後、一緒にディナーに行く人を探すためにウロウロする取締役A、私はコソコソと逃げ回っていました。

 

すると余り事情を知らない私の部下の課長Bが取締役Aと談笑し「ワインが好きだから行きたい!」とほざいていました。

 

私は目の前が真っ暗になりましたが、取締役Aが私に手招きし「課長Bさんが行くってよ、あんたはどうする?」と言われて「はい…」と。

 

そして近くで知らんぷりしていた部長Cに「あれ?部長Cさんも行きますよね?」と巻き込んでメンドイ話の割合を薄めることにしたのてす。行く際のエレベーター内で、部長Cに思い切りツネられたのを覚えています。

 

こうして
取締役A 権力を握り続けている女性
課長B 私の部下で女性
部長C 私の同僚で女性
の3人と私でワインが飲めるお店に行くことになりました。

 

会社を出て徒歩で数分の場所にあるワインバー。


取締役Aは以前にも来たことがあるらしく「ここにしよう♪」とノリノリでした。

 

「チッなんだよ。ここに来たかっただけかよ?1人で行けよ」と思いましたが、理由は後ほど分かりました。

 

背が高めの椅子、丸いテーブル、種類豊富なワイン、ワインに合う料理の数々、オシャレなレイアウト。店内は女子ウケ抜群の作りで、私たち以外はカップルか「イケてる女子」ばかりでした。

 

私たちはというと、
取締役A 50代前半で年齢相応の見た目、ルックスは鬼太郎(女性)でスタイルはドラえもん
課長B 30代前半、ルックスは中の上くらい、細身で小柄の女性
部長C 30代後半、ルックスは上の中くらい、スタイル抜群の女性
私 30代前半、スタイルは良かった(当時は)、ルックスは中の下〜下の上か?
(プロフィールの絵は私をモデルに書いてもらったものです)

 

取締役Aは背が低いので背が高い椅子は不便そうでしたが、

度々「うんしょ、ヨイショ♡」等と人のカルシウムを蝕むブリっ子をしており、私と部長Cは顔を見合わせて「なんだコイツ」となっていました。


殺人的に空気が読めない課長Bは気づいておらず、チーズとワインを楽しんでいました。

 

仕事の話、プライベートの話、料理の話と続き、食事の時間が60分を過ぎた頃です。

 

取締役Aが私たちに問いかけました。

 

「気づいた?」

 

何が!???と心の中で思い、私たち3人は「え?何がですか?」と言うと、取締役Aは顔を赤らめて恥ずかしそうに言います。

 

私はこの時点で嫌な予感がしました。

 

「こういうのって自分から言うのは恥ずかしいじゃない?」


”JYANAI”?じゃねぇよ!!ですが、この取締役Aは「じゃない?」が口癖でした。

 

私たちは「はい?え?」と言いました。

 

すると取締役Aは続けます。もうあんた達本当にしょうがないなぁ~みたいな表情をしながら・・・。

 

「ほら?あそこに黒いエプロンをした店員さんいるでしょ。あの人、ずっと私をチラチラ見てくるのね?」

 

”NONE”?じゃねぇよ!! 

 

一瞬でザキを唱えられたかと思う程の嫌な気分に。

 

イヤイヤ店員さんはそれが仕事ですよ?
そしてめちゃくちゃイケメンで、たぶん30歳くらいで、背も180センチ近くあって、ムリムリ×9999と思いました。

 

流石にそんなワケないという表情が隠せなかった私と部長Cに対して取締役Aは攻勢に出ます。

 

なお課長Bは、「えー!そうなんですかー!気づきませんでした!取締役Aさんモテモテですね」とカス発言

 

「見てて、私が呼んだらすぐ来るから♡」

 

いや店員さんだから私が呼んでも来ますけど?と思いましたが、取締役Aは止まりませんでした。


小まめに料理を頼み、その都度イケメンを呼びつけて、イケメンが去ったあとは私たちにドヤ顔。

 

この死のループで吐きそうになり、ここから出してくれ!!頼む!!!と心の中で叫んでいました。


予想外かつ余りのカオスに部長Cを巻き込んだ為、明日はお詫びの上で何か美味しいスイーツでもご馳走しようと思いました。
ちなみにこの間も課長Bはワインとチーズとハムでご満悦。

 

そして取締役Aは更に加速していきます。

 

「まぁしょうがないよね?、私が目立ちすぎてるしぃ」
「ちょっと身長差ありすぎ?どう思う?」(取締役Aはヒールで誤魔化していますが150センチほど)
「彼なら無くはないけど、ちょっと困っちゃうかもぉ」
「会社から数分でしょ?すぐ噂が立つじゃない?」
「お酒好きだから毎晩ワインだけじゃ嫌かもぉ」(イケメン店員と付き合ったらワインしか飲めない想定)

 

うぜーーー!!UZEEE!!!が止まりませんでした。

 

私と部長Cは「いや、でも今は気づきませんでしたね」、「なんか他のテーブルにも行っちゃってますよ」等と軌道修正を促しますが、全く聴く耳を持ってくれません。

 

ちょっとでも否定的なことを言おうものなら「分かってない」、「そういう所だよ?」、「あんた達にはまだ分かんないか」などのカスフィードバック。

 

取締役Aの中では、イケメン店員さんがいつ自分に告白してくるか?という状況のようでした。

 

そして賭けをしようとほざきます。

 

「私たちはもう少しで店を出るじゃない?私たちが出るまでに彼が私に連絡先を渡して来るか賭けない?」

 

こんなに楽な賭けはないなと思いました。そして耳が腐る。

 

しかし立場の関係上で私も部長Cも空気を読んで歯を食いしばりながら「渡しにくる」に賭けました・・・。


疑うことを知らない課長Bは極自然に「えー、そんなの渡しに来るに決まってますよ~!賭けにならなーい」とホザいて「渡しに来る」に賭けました・・・。

 

私のテーブルはカスしかいないな、早く帰りたいなと思いました。

 

中々、連絡先を渡しに来ないイケメン店員にソワソワする取締役A「もう少しで出るじゃない?」と言ってから1時間は過ぎました。

 

シビレを切らした取締役Aは攻めます。

 

イケメン店員が恥ずかしがって来れないという都合の良い想像をして「私が呼んだ方がいい?」と腐った質問を私たちに投げてきました。

 

私と部長Cは「いやぁ、それはどうでしょう・・・?」と回答を濁します。


課長Cは「呼んじゃった方がいいですよ!」と前向きな発言。明日はみっちり説教してやる!!と思いました。

 

そして取締役Aが手を上げて、イケメン店員を呼ぼうとしたその刹那

 

「おつかれ~」と言いながら”東京カレンダー”に出ているかのような【超美人の2人組】が店内へ入ってきました。


イケメン店員が「うーぃ、おせーよぉ!早くこっち座れよ」とただならぬ距離の近さで話しかけます。

 

どうやらこの美人2人は常連の様子、イケメン店員と別の店員にケーキの差し入れを持ってきており、お互いにタメ口で話していました。

 

更に店外でも会っているようで、この前のバーベキューが~、そういえば○○をドライブした時~という会話がされていました。

 

美人とイケメンのやりとりに目を奪われていましたが、“ハッ”と気づきます。

 

取締役Aは!?と。

 

私と部長Cが恐る恐る取締役Aに目をやると、料理に夢中のふりをして気づいてない体でいました。

 

いやいや、ムリムリ×9999と思いましたが、突っ込んでも悲しいだけなのでスルーすることにしました。

 

しかし課長Bが切り込んでいきます。

 

「あれ?呼ばないんですか?」

 

おーーーい!アホか!お前は!これ以上悲劇を起こすな!!!

 

取締役Aは惚けた顔で「え?何が?」と切り返します。

 

私はテーブルの下で課長Bの足をチョンチョンしつつ、必死に目で合図してそれ以上の食い下がりを止めました。


ギリギリで次の発言は思いとどまったものの私は課長Bを明日どのくらい詰めようか?と思いました。

 

その後、取締役Aは全く何もなかった体で「明日も早いし、帰ろっか?」と言い、私たちは待ってました!!!と店を出ました。

 

「ここ会社の御用達にしちゃう?」
「え?ランチもやってるってよ?昼も夜もは会い過ぎかなぁ?」
「美味しいぃぃぃ♡毎日来ちゃうかも♡」
「忘年会はここに決まりかな♡」
「ワインって美容にいいじゃない?これ以上私にどうしろって言うのよ♡」
と耳が腐る呪文を唱えまくっていましたが、そのワインバーにはそれ以来行っていません。

 

 

■おわりに
本記事を書きながら、思い出して憤りと苦笑いと悲しさが蘇りました。
今から十年~十一年前の間の出来事なのに台詞、言い方、表情まで鮮明に覚えていました。

 

それだけ衝撃だったということか・・・。

 

それにしても「気づいた?」、「じゃない?」が多いこと。その他の出来事を思い起こしても、この2つは頻繁に言ってましたね。

 

「気づいた?」でどう転んでもマウント、「じゃない?」で同意の強要。まぁ職位があってのことですが・・・。

 

仕事だけに集中していれば良い人だったのですが、余りにも本記事のようなことが多くて人望は極薄でした。


皆がそうとは言いませんが、長く権力を持つと自分を律するのは難しいですね。
社外からは忖度が増えますし、居心地の良さから周囲にはYESマンが増えますし。

 

しかしビジネス書の名著「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五原則」にある通り、そんな体制は長続きしません。

 

本記事の出来事から1年ほど後に取締役は解任されました。

 

しかし相変わらず能力は高いようで、今もどこかの役員をしているようです。

内面はどうなったか? きっと変わってないんだろうな・・・。