ワインバーで無双した取締役にまつわる話です。
今から10年ほど前、月に何度も取締役と2人で出張をしていました。
私はストレスに強い方ですが一緒に居ると、とにかく「嫌な感情」になることが多く気づいたら胃腸炎で体調を壊していました。
出張した日の夜は逃げ場がないので(予定があるとか逃げるように急いで帰るとか出来ない、というか普段も帰った後遅くまでバンバン連絡は来る)必ず夕食を取締役と一緒にとります。
その日も一緒に夕食をとりました。
食事を始めて、頼んだ料理も殆ど食べ終わり60分〜70分を過ぎた頃に取締役が語り始めます。
予め用意していたトークをしようしようという雰囲気はビンビンに感じていましたが面倒だったので躱していました。
しかし、話したくて仕方がないようで無理矢理語り始めたのです。
これはそんな恋多き取締役の鉄板トークの話です。
■若かりし頃の初恋話
それは10代最後付近から20代中頃まで付き合っていた彼氏との話でした。
導入はこんな感じでした。
「ねぇ、アンタは初恋ってどんなだったか覚えてる?」(遠い目)
この時点で嫌な予感、鳥肌、悪寒が凄まじかったです。
私の初恋は幼稚園の先生でしたがそれを言っても面倒になるだけなので「いやぁ、あんまり覚えてないですね~」とヘラヘラしながら答えました。
するとやや斜め下を見ながら「そう・・・。私は今でも昨日のことのように覚えてる・・・」と呟きやがりました。
そしてオートマティックに始まる回想、拒否権はありません。会社員ですから・・・。
ざっくりまとめるとこんな話です。
①初恋の相手で(途中いちいち「ほら、私って意外と一途じゃない?」等と知らんし、どうでもいい補足多々あり)結婚を考えていた彼氏がいたけど、ある時から彼が急に冷たくなり喧嘩別れして、少し経ってから買い物をしていると彼氏の妹に会った。
(初恋の相手と結婚までという不要な清楚アピールあり)
②妹が言うには兄(彼氏)は今でも私の事(取締役)が好きで会う度に話してくる。
③なぜ冷たくして喧嘩別れに誘導するような事をしたかと言うと末期ガンで余命がなく、オレと居ると幸せになれないと思ったからとのこと。
④取締役は居てもたってもいられなくなり、隠す妹から無理矢理に病院名を聴いてすぐに向かうも会ってくれない、毎日通ったけど会ってくれない。病院の前で何時間も待ったり、病院の駐車場で一夜を明かしたりしたけどやっぱり会ってくれなかった。
⑤そんな日がしばらく続いて取締役の誕生日の日の0時過ぎにどうしても会いたくなって外から病室を見るだけでも…と思い病院に行った。(夜中に病院の敷地内に?等のツッコミは我慢)
⑥病院の入口を過ぎて病室が見える位置まで歩いていたら「おーい」と私を呼ぶ彼の声が聴こえた。振り向くと彼がスーツを着て花束を持って立っていた。
⑦なぜ急に会ってくれたのかというと「もう余命も残り少なくてお前(取締役)の誕生日だし、もし今日会いに来たら会おうと思って待ってた、たくさん悲しい想いをさせてごめんな」、「何でスーツなの?」と聴くと「大事なお前の誕生日なのに病院のパジャマじゃ祝えないだろ?」って「オシャレな彼らしいよね?」とのこと。
このあたりから涙を流し始めます。
⑧2人で病院敷地内のベンチに座って星を見ながら泣くのを我慢しながら思い出話をし合った。病院に咲いている桜が綺麗でこの幸せな時間の思い出のため、お互いに花びらをプレゼントし合った。あっという間に時間が過ぎて午前3時過ぎ頃に「また会おうね、絶対だよ」と言って解散した。
⑨帰り道に胸がザワついて不安がよぎった(ほら、私ってそういうの視えるじゃない?という補足あり)でも桜の花びらをプレゼントし合って、また絶対会おうねと約束したから大丈夫って言い聞かせて帰った。ところが、その日の早朝に彼の親から電話が会って今朝早く彼が亡くなったと言われた。
⑩泣きながらタクシーで彼の家に行って喋らなくなった彼と会って彼の両親と弟と話すと、最後の瞬間まで花びらを握ったまま離さなかったんだけど何か知ってる?点滴とか色々ついてるし体調も歩ける状態じゃなかったのに不思議って言われて涙が止まらなかった。(弟?!妹は!?という突っ込みは控えました)
⑪「本当にギリギリだったのに私の誕生日の為に命を削って会いに来てくれた」、「今思えばスーツに着替えられる状態じゃなかったから魂だけが会いに来てくれたのかも」、「私が前に進めるよう悔いを残さないように話しに来てくれた」
???急に世にも奇妙なことをぶっ込んできつつ物語はエンディングへ。
目の前で歳の離れた異性が泣いてるし、他のお客さんは会話内容を聴いてるわけじゃないから何事か?と思ってガン見されて恥ずかしいし…。
とりあえず「それは本当に辛かったですね。取締役が活躍してるのはその彼がいつも見守ってくれてるからっていうのもあるかもですね。いいなぁ、そんなカッコいい彼氏、そんな熱い恋愛。取締役凄いです!」と言ってクロージング。
取締役は演技かつ自分に酔いつつ軽く泣いているので「うん、スン、そうだよね、スン、あばあばばば」と言いながら店を出る準備。
店を出てホテルのロビーに着いたら「まだ早いしラウンジでも行く?」と元気に悪夢のお誘い。
私が余りにも躱すので話す事が目的となり、話せた事で設定を忘れたのか3分も経たずに笑顔&いつもの感じに。
普段はYESと言う私ですが、主演取締役の韓国ドラマと胃腸炎で瀕死だったのでお断りして部屋に…。
「ふーん、そうなんだー、別にいいけどぉ」と体調悪いって言ってるのに人の気持ちをモヤモヤさせる台詞を下を向いて足を交差させるブリッ子アクションをしながらほざく取締役50代女性。
「すみません、申し訳ないです。おやすみなさい」とエレベーターに向かう私を呼び止めて近づき「彼はもう居ないし吹っ切れてるから嫉妬はしないでね♡」と腐ったトドメを刺しにきました。
私は「あっはい…大丈夫です…」といいエレベーターに乗り閉まるボタンを連打しました。
その時の精神状態は、このまま宇宙まで上がって行って欲しいと思ったほどです。
後日、同僚の社員に聴くと、
「あっ?聴いちゃった?その話オレの時は30代前半で事故っていう設定だったよ」
また別の社員は、
「オレの時は高校生の設定で心臓病だったなぁ」
更に別の社員は、
「オレの時は大学時代で白血病だったぜ」
このように時期や死因は異なるものの「夜中に病院に行ったら彼が声をかけてきて、スーツを着て花束を持って立っており、桜の花びらをプレゼントし合って」という流れは同じ。
この手の話は多く聴くし細かい所で設定が甘いし、そもそも20代中頃まで海外で働いていて1日も休んだことないみたいなエピソードを話してませんでしたっけ?
あとこの話の冒頭で彼が初恋の相手と言ってましたけど以前は「初恋は高校生の時で相手は20代のビジネスマン、私って同年代の男に魅力を感じなかったのね」と仰ってませんでしたっけ?
本当の話ならフェイクは混ぜても色んな人にベラベラ話すような事ではないし、話の内容を変えるのもその彼に失礼過ぎるので嘘確定。
まぁ他にも似たような嘘が多いので分かっていたけど「店を出てから元気だったけど、もし本当だったら無理してでもラウンジに付き合うべきだったか?悪いことしたかな?」とホテルの部屋に戻ってからしばらく反省して寝れなかった私の思いを返してほしい。
ちなみに、この話は20代後半から30代後半の独身男性&見た目が取締役の許容範囲内&社内外問わず2人きりで夕食を県外で食べた日に語る持ちネタのようです。
悲しい過去で同情を誘う→悲劇のヒロインを演じて主役感を引き立たせる→庇護欲を掻き立たせて関係を深める狙いがあったのです…
独身男性&県外=ホテルなので環境はバッチリ。
知る限り深まったのは社外の御一人だけ…
■おわりに
本題とはズレますが取締役は同時期によく女子会を開いていました。
「今日は女子会だからあんたは誘ってあげなーい」
「来たいのは分かるけど女の子だけで話したいこともあるの」
「話した内容気になる?教えなーい♡」
と毎回ほざいていらっしゃいました。
こちらサイドとしては「ヨッシャー!今日は女子会だから夜は誘われない!早く帰ろ♪」でしたが取締役の中では「私とごはん行きたいのは分かるけど今日は我慢してね♡」というスタンス。
疲れる。正気の沙汰ではありません。
また出張中は平時より荷物が多くなりますが取締役はスーツケースを持ちませんでした。
なぜなら!?
「あーん、持ってぇ♡」
「女の子に持たせる気ぃ?」
「私の荷物持っていいけど中は見ちゃダメだよ♡」
と言いたいからっ!!
背が低いから毎回上目遣いで!!
そんな奴いる!?とお思いの方もいらっしゃると思いますが居たんです。これも多様性か…
きつい。キツすぎる。10年経っても色褪せない不快感、蘇る絶望、大いなる勘違いと名言の数々。
あの頃の私に声を大にして「いつもお疲れ様さん!こんな馬鹿なことずっと続かないからもうちょい頑張れ!」と言ってあげたい。本当にキツかったから。