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こんなに悲しい『知ってたよ』は初めて聴いたし、現実世界でこんなに『哀愁が漂うおっさん』を初めて見たという話

先月のことですが、ふと思い出しては吹きそうになりつつ、少し悲しい気持ちになる出来事がありました。

 

名前も知らないおっさんと若い女性とのやりとりです。


おっさんと言っても私と同世代ですが、女性との年齢差は一目瞭然でした。

そんな名も知らないおっさんの哀愁漂う様について書きたいと思います。

 

■雰囲気の良い店にて
その日は特に予定がない日で「ドタキャンされたけど予約が取れない店だからご飯行かない?」と同僚に誘われました。


ドタキャンされた愚痴も言いつつ、仕事の話もしたかったのでしょう。その日は急な大雨で店までタクシーに乗って行きました。

 

会社を出てタクシーで10分ほど行った所にある店は地下にあり、ちょっとした隠れ家&知る人は知る的な店構えです。

 

種類豊富なビール、そのビールに合う料理が売りの雰囲気の良い店でした。
同僚とは2週間に1度くらいの頻度で食事に行っており、仕事の話、プライベートの話、過去の話、未来の話と毎回大いに盛り上ります。

 

しかし、この日は違いました。私たち2人はエキストラで主役が別にいたのです。

その主役は、たまたま隣のテーブルに座った他のお客さんでした。

 

2人組で1人は45~50歳くらいのおっさんで小太り&頭も寂しい見た目(我々も40代前半で近いですけど)


もう1人は28~33歳くらいの女性で顔もスタイルも良く、普通に考えたら「なぜ、おっさんと?パパ活か?」というような子でした。

 

おっさん上司はルックスこそイケているとは言い難かったですが、TUMIのレザーブリーフケース(たぶん5万~10万の間)で、時計も30~50万ほどの物をしており、スーツや靴も安物ではなかったのと、その後の会話から恐らく部長級。

 

女性はスカートスーツでスタイルが良く背も165ほどあり、街中でもすれ違う男性が振り向く感じでモテて来たよね?というルックスでした。

 

隣のテーブルとの距離は50cmくらいなので会話内容はどうしても耳に入ります。
最初の飲み物を頼むまでのやりとりから、どうやら2人は会社の上司と部下という関係のようでした。

 

この日の主役はこのおっさん上司だったのです。

 

同僚との食事は毎回盛り上がりますが、その日はお互いに口数が少なく会話が続きませんでした。


それもその筈、隣が気になってしょうがないのです。お互いに。


会話の内容から女性は数か月以内に一緒に来ている上司が採用面接を担当し入社したようで、おっさん上司が女性部下を女性として見ているのは会話内容から明らかでした。

 

どうやら狙っているらしくおっさん上司は終始デレデレしており、女性部下は、そんなおっさん上司を上手に転がしているように見えました。

 

今でも耳に残る会話として次のようなものがあります。

 

女性部下「でも、私って大学も出てないのにぃ、ウチみたいな良い会社に入れるなんて~。本当に驚きですぅ。私のどこが良かったんですかぁ?」(どうやらそれなりの企業らしい)

 

私は現在進行形で採用に悩んでいたのでコレは興味津々でした。決め手はなんだったのか!?

 

おっさん上司は少し考えたあと、やや恥ずかしそうにこう言いました。

 

「フィーリングかな」

 

恐らくおっさん上司の頭の中ではプロフェッショナル仕事の流儀の“効果音”が流れた事でしょう。


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おっさん上司はやや斜め上を見ながら、意識高い系のトーンでカッコつけて言っていました。

 

私と同僚は思わず飲み物を「グフ」と同時に吹いて、お互いに目を見合わせ「なんだコイツ」という認識で一致しました。

 

女性部下は「えぇ~。そうなんですかぁ?でも私も面接でビビって来たんですぅ、ありがとうございますぅ」と甘えた感じで言っていました。

 

最初こそ、職権濫用で無理やりイケてないおっさんの食事に付き合わされて可哀想に・・・と思っていましたが、時間が経つにつれて、女性は女性でビジネス的な意味も含めて満更でもない雰囲気がありwin-winだなと。

 

女性部下「採用のお礼もしたくて、ずっとタイミングを計ってたんですけどぉ、(おっさん上司)さんお忙しそうで話かけられなくて~。今日は誘って頂いて本当に嬉しかったですぅ」

 

おっさん上司「そんなのいいよぉ~。俺は君って決めてたし(キリっ)」(ドヤ顔で言っていた)

 

その後は「職場で困ってることはない?」、「おれはいつも君の味方」、「次の査定では昇給も考えている」と怒涛のトークでしたが、女性部下が”とある男性社員”の名前を出した途端、おっさん上司は声色を変えて反論し始めました。

 

女性部下「Aさんとか、Bさんとか、Cさんとか本当に皆さん良い先輩で良くしてもらっていますぅ」

 

おっさん上司はCさんにひっかかったようでした。

 

おっさん上司「Cさん?え?話すの?ダメだよ!彼は私の部でも問題児だし、ちょっと思う所あって、今後はどうしようかと悩んでる」

 

女性部下「えぇ!?そうなんですか?でも、本当に優しくて、よくランチとかも誘って頂いていますぅ」

 

おっさん上司「え!?本当に?彼は私の頼んだ仕事はいつも期限に間に合わないのに(女性部下)さんを誘ったりしているの?ダメだなぁ。ちょっと考えないと・・・」

 

Cという男性社員はおっさん上司の部下らしく、仕事が出来ない問題児&チャラ男でおっさん上司は疎ましく思っているらしかった。

 

更に嫉妬が入り混じり、とにかくCさんを口撃するおっさん上司に私と同僚は「情けない奴だなぁ」と苦笑いしていました。

 

その後、空気を読んだ女性部下はおっさん上司の仕事振りやリーダーシップ、頼りになる度などの連射でヨイショを開始。

 

おっさん上司は分かり易く機嫌を治してすぐ笑顔になっていました。

 

私と同僚は日頃、同じ風になっていないか?と自問自答しつつ、このおっさん上司を反面教師にしようと心に誓いました。

 

機嫌が良くなったおっさん上司は酒も進み、2人の会話は盛り上がっているように見えましたが時間が経つに連れて、おっさん上司は攻め始めます。

「今日は何時まで大丈夫?」
「俺ともランチ行こうよ。オススメの店あるし」
「また飲みにいこう」
「タクシー代出すから電車の時間は気にしないで」
等々と怒涛のグイグイトークで攻めていました。

 

流石にグイグイすぎるし、このご時世はセクハラで刺されるので私と同僚は「もう、その辺で止めとけよ~、刺されるぞ~」と心配しながら見ていました。

 

そして、その時がきました。

 

おっさん上司が、それまでよりも攻めの強さを上げたのを機に女性部下の態度が急変したのです。

 

おっさん上司は言おう言おうと思っていた感じがビシビシ出ていて、女性部下は上手く話題を変えていたようにも思えますが、話題変更にも限界があり、遂にその時が来てしまったです。


おっさん上司はおもむろに床に置いているブリーフケースから何かのパンフレットを取り出して、女性部下に渡します。

 

そしてこう続けました。

 

おっさん上司「その温泉、すごく評判良くてさ。(女性部下)さん、面接で温泉巡りが趣味って言っていたよね?次の連休で一緒に行かない?」

 

私と同僚は「ドキっ」として二度見しました。「それは無理だろ?」と。
たまにランチや飲みに行く程度で我慢しておけと。
それ以上を求めたら訴えられるか、悲しい事になるかだから!!と心の中で叫びました。

 

すると女性部下は黙って下を向いてしまいました。

 

コミュニケーション能力が高く、ノリが良くて、よく笑っていた女性部下から「すん、すんすん、すん」とススリ泣く声が聴こえはじめます。

 

おっさん上司は分かり易くテンパり、オロオロしていました。

 

なぜか私と同僚も一緒にオロオロしてしまいました。

 

これまでの感じだとNo1キャバ穣ばりの躱しトークで華麗にお断りをするかと思いきや、黙って下を向いたまま泣くという深刻な状況に「あ~、このおじさん訴えられて、よい歳して無職かぁ」等と考えていました。

 

その状況が3分程度続いてから、女性部下は意を決した感じで話はじめました。

私と同僚は、もはや飲み食いをやめて隣しか見えていませんでした。

 

女性部下「あの、これ絶対に言うなって言われているんですけど・・・。私は雇ってくれた(おっさん上司)さんを尊敬しているし・・・、大好きな上司だから嘘をつきたくなくて・・・、ずっと悩んでました・・・。今日は勇気を出してお伝えしようと思うんです・・・。私の話、聴いてくれますか?・・・」

 

・・・の箇所で”すん、すん”と泣きながら女性部下は涙目&上目遣いという必殺技を繰り出します。

 

おっさん上司「ん!?お、おぉぅ」

 

おっさん上司は何事かとビビりながら「おう」と言ったつもりでしょうが声が震えて言えていませんでした。

 

表情や仕草はめちゃくちゃドキドキしているようで、我々もなぜかおっさん上司と同じくらい緊張してしまいました。

 

女性部下「実は〇月に私、Cさんと結婚したんです」

 

おっさん上司「え!????????」

 

おっさん上司の驚きはごもっともでした。

 

分かる。

 

おっさん上司の反応と同時に私と同僚も「え!?」となり、女性部下を見てからお互いに顔を見合わせて「嘘でしょ?」となりましたから、よーく分かります。

 

その瞬間はこの場所が世界一「え!?」だったと思います。

①採用してくれた直属のおっさん上司に入社後の結婚という一大イベントを内緒にしていたこと

 

②結婚相手はおっさん上司が良く思っていないCさんであること

 

③「また飲みに誘ってください」、「今度ランチ行きましょう」と女性部下からも頻繁に誘っていたこと

 

これまでの会話から①~③の状況にて、おっさん上司は声を震わせながら続けます。

 

おっさん上司「え?いつ?だって。おれ聴いてないよ?式は?え?なんで?いつの間に?」

 

女性部下は説明します。
「入社してすぐの私の歓迎会のあと、二次会でCさんにLINEを聴かれたんです」
「それでその後は仕事で困った事とか悩みを聴いてもらってて仲がよくなって・・・」
「でも(おっさん上司)さんは、Cさんをよく思っていないし、Cさんもよく思ってないから・・・」

 

いや、”Cさんもよく思ってない”は言ったらいかんよ???と我々は心の中で突っ込みました。

おっさん上司はとにかくテンパっており、その部分はスルーでした。

 

おっさん上司「えぇーーー!?。いや、でも・・・式は~?」

 

女性部下「〇月にCさんが体調不良と言ってズル休み、私は旅行とかいって休んだ週があったんですけど、その週の土日で式を挙げました」

 

おっさん上司「えぇ!?そうなの?おれ聴いてないよーーー?」

 

何かもう悲しくなってきました。私と同僚は女性部下に「もう勘弁してやってくれ」と思いました。

 

女性部下は言いたかった事が言えたから元気が出たのか、口調が元に戻ります。
「Cさんが(おっさん上司)は呼ぶなって怒るから、何人かの同僚だけ呼んで済ませたんですぅ。皆さんにも(おっさん上司)さんには内緒ってことで協力してもらったんですぅ」

 

Cさんはしょうがないとして、何人かの部下や同僚はトバッチリを受けることになりそうです。

 

おっさん上司「そうなの!??同僚って?」

 

女性部下「皆、(おっさん上司)さんには内緒ってことで快く協力してくれて、〇〇さんと〇〇さんと〇〇さんと・・・・」
5名~8名ほど名前をあげていました。

 

おっさん上司「え!?〇〇も。本当に!?」
どうやら長年の腹心の名前も出たらしく、さらにショックを受けていました。もはやおっさん上司は半泣きでした。

 

そしてこの後です。渾身の名台詞。

 

おっさん上司「まぁ・・・、うん、でも・・・、うすうす”知ってたよ”、知らないふりしてたから祝えなくてごめんね」

 

嘘つけ!!!と私と同僚は同時に思いおっさん上司をガン見してしまいました。
私と同僚は苦笑いが止まりませんでした。

 

しかし魔性の女性部下はこのチャンスを逃しません。完璧に嘘の「知ってたよ」だと分かっている癖に畳みかけます。

 

女性部下「いえ、とんでもないですぅ(おっさん上司)さんには本当に感謝していますし、これからも飲みとか誘って頂きたいですぅ。温泉はCが怒るので無理ですけど、こういうことで関係を壊したり、ギクシャクしたくないんです。またランチとかディナーとか誘ってくれますかぁ?」

 

女性は赤い目をしながらスンスンしつつ泣き声で言いました。

 

私と同僚は「いや、それは無理だろ」と思いました。

 

おっさん上司「う、うーん。まぁ、うん。誘う、誘うから元気出してくれよ」

おっさん上司はお手本のような苦笑いをしながら力なくそう言いました。

 

それを聴いた女性部下はウソ泣きだったの?と言うほどケロっとテンションが変わり、上を向いて急に元気になりました。

 

その数分後、女性部下はお手洗いなのか席を立ちました。

 

おっさん上司は腕を組んで下を向きながら数秒考えたあと、天を仰いで更に数秒固まり、大きく「ふぅ~」と溜息をついていました。色々と思う所があるのでしょう。

本当に・・・。我々はドンマイと心の中で言うしかありませんでした。

 

そして小声で店員さんを呼んで「チェックで・・・」と力なく言っていました。

 

「今日は朝まで飲むぞぉ~♪」
「終電なくなってもタクシーでいいかな?、いいとも~♪」
「次の評価も期待してていい、俺の心をこんなにも掴んでいるんだからね♪」
とエロオヤジ全開で30分ほど前まで言っていたとは思えない状況。人生は何が起こるか分かりませんね・・・。

 

女性部下が戻ってきた頃には支払いを済ませ身支度を整えて、店を出るよオーラをバンバンに出しながら”早く帰ろうビーム”を出していました。

 

女性部下「えぇ!?もう帰るんですかぁ?今日はCにも(おっさん上司)さんと飲んで帰るから遅くなるって言ってあるしぃ、まだ大丈夫なのにぃ」

 

いやいや、もう、なんか、色々悲しい。

 

なんじゃそりゃ。Cさんも明日、大変だ。まぁ面と向かって何かは出来ないだろうけど、長い目で見ると良い事にはならない筈。

 

おっさん上司「あ、いやごめんね。そういえば会社に忘れ物したから取りに帰らないといけないし、新婚さんが遅くまで飲むのはよくないよ。帰ろう」

 

会社に忘れ物は理由として苦しすぎましたが、おっさん上司はとにかく一緒に居たくないらしく、帰ろうとしていました。

 

まぁそりゃそうですね。自分のことを嫌っているCさんは、自分の嫁にグイグイなおっさん上司を陰で嘲笑っているでしょうし。

場合によってはセクハラで刺される証拠を掴まれまくってますから。

 

女性部下「えぇ~。そうなんですかぁ。分かりました~。寂しいですけど帰りますぅ」

女性って怖いなと改めて思いました。

 

好みだから採用する
立場を利用して食事に誘う
プライベートでも関係を持とうとする
こういうのは論外だし、管理職失格なのはもろんですが、女性部下の方にも問題がありました。

 

確実に満更でもない受け答えの数々でYESの雰囲気が強すぎて距離感を誤っていた
モテないおっさんは勘違いしても止む無しというレベルだった

 

また言う必要のない発言の多さも目立った
「Cもおっさん上司をよく思っていない」
「おっさん上司に内緒で同僚も何人か式に出た」
「体調不良と言ってズル休み」
「今日、おっさん上司と会うことはCに言ってある」

 

職権乱用、セクハラはダメですが
気に入っていた女性が快く思っていない社員と気づいたら結婚していたこと
知らなかったのは自分だけだったこと
信頼していた長年の腹心も加担していたこと

 

自ら連れてってくださいと言うコミュニケーション、急なテンションの変化、涙→笑顔の切り替えの早さから職権乱用&セクハラの悪代官と思いきや詐欺にあったおっさんでした。

 

そして自分だけ知らされていない状況で裸の王様?、村八分?とにかく不憫でした。

 

途中までは立場を利用して女性社員を餌食にしようとする悪者という印象だったおっさん上司でしたが、衝撃の告白を受けたあとは見る影もなくテンションが下がり、哀愁が半端なかったです。

 

2人が店を出たのを横目で見送ったあと我々は隣で起きたことの認識合わせを行い感想を言い合いました。

 

女性部下は地上への階段をあがる際も「えぇ~、また誘ってくださいね、絶対ですよぉ~」と言っていました。

 


■おわりに
笑っちゃいけないかもしれませんが、
「フィーリングかな」から「知ってたよ」までの怒涛の流れ


朝まで飲むと言っていたのに忘れ物ごときを理由に解散という無理な言い訳

 

おっさん上司と女性部下の滞在時間は恐らく1時間30分くらいでしたが、どんでん返しがある衝撃のやりとりでした。

 

その日はおっさん上司の哀愁が伝染したのか悲しくなって、いつもの半分くらいの時間で早めの解散となりました。

 

おっさん上司に何かイイ事起これ!と思う今日この頃です。